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大分地方裁判所 平成4年(ワ)29号 判決

平成三年(ワ)第四六号原告

水野スエノ

平成四年(ワ)第二九号原告

幸道則

被告

田野安秀

ほか一名

主文

一  原告水野スエノに対して、

1  被告田野安秀は、一一四二万四六〇七円及びこれに対する平成元年八月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告田野キヨは、一一四二万四六〇七円及びこれに対する平成元年八月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告幸道則に対して、

1  被告田野安秀は、一一四二万四六〇七円及びこれに対する平成元年八月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告田野キヨは、一一四二万四六〇七円及びこれに対する平成元年八月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

一 原告水野スエノに対して、

1  被告田野安秀は、一六五一万二九九三円及びこれに対する平成元年八月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告田野キヨは、一六五一万二九九三円及びこれに対する平成元年八月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告幸道則に対して、

1  被告田野安秀は、一六五六万二九九三円及びこれに対する平成元年八月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告田野キヨは、一六五六万二九九三円及びこれに対する平成元年八月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 発生日時 平成元年八月三〇日午前三時五六分頃

(二) 発生場所 大分市下白木四組安部昭雄方先路上

(三) 加害車両 大型貨物自動車(大分一一か五六八九)

(四) 被害車両 普通乗用車(大分五六み八〇一三、以下「本件自動車」という。)

(五) 右運転者 亡田野薫(以下「亡薫」という。)

(六) 被害者 亡幸直美(以下「亡直美」という。)

(七) 事故の態様 亡薫が、前方不注視の過失により対向車線上に本件自動車をはみ出させ、対向車線を走行中の加害車両に側面衝突したものである。

(八) 結果 本件事故により、亡薫及び亡直美が死亡した。

2  亡薫の責任原因

亡薫は、飲酒のうえ本件自動車を運転し、前方不注視の過失により本件事故を発生させて、亡直美を死亡させたものであるから、民法七〇九条により不法行為責任を負う。

3  相続関係

(一) 原告らは亡直美の両親として、同人を相続した。

(二) 被告らは、亡薫の両親として、同人を相続した。

4  亡直美の死亡による損害 八五二五万一九七三円

(一) 逸失利益 六四二五万一九七三円

亡直美は平成元年四月から芦屋産業株式会社に勤務し、本件事故で死亡するまでに総額で一一七万四八〇〇円の賃金を得ていた。したがつて、同人の一か月当たりの平均賃金は二三万四九六〇円となる。これに加えて、年間四か月分のボーナスが見込まれるので、同人の年収額は三七五万九三六〇円(別紙計算式〈1〉のとおり)となる。

亡直美は死亡当時一八歳であるから、六七歳まで稼働できたものとして、これに対応する新ホフマン係数である二四・四一六を用いることとして、同人は独身であったから生活費の控除を三〇パーセントとして、その逸失利益を算定すると、右金額(別紙計算式〈2〉のとおり)となる。

(二) 葬祭費 一〇〇万〇〇〇〇円

亡直美の葬祭費として、右金額が相当である。

(三) 慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

一八歳の若さで死亡した亡直美の無念さは筆舌に尽くし難く、また、両親である原告らの悲しみも甚大なものがあるから、右金額が相当である。

5  損害の填補 二五〇〇万〇〇〇〇円

原告らはこれまでに、本件事故の損害について自賠責保険から合計で右金額の支払を受けた。

6  弁護士費用 五九〇万〇〇〇〇円

原告らは、本件訴訟代理人である古庄弁護士に本件各訴訟の遂行を委任したから、その費用として次の金額を被告らが負担すべきである。

(一) 原告小野スエノにつき 二九〇万円

(二) 原告幸道則につき 三〇〇万円

(右弁護士費用を加えた原告らの損害の合計額は六六一五万一九七三円である。別紙計算式〈3〉のとおり。)

7  結論

よつて、原告らは被告に対して、本件事故に基づく損害賠償として、請求の趣旨記載のとおりの損害賠償金及びこれに対する本件事故日(平成元年八月三〇日)から完済まで民法所定年五分の割合の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)は認める。

2  請求原因2(責任原因)は認める。

3  請求原因3(相続関係)のうち、(一)は不知、(二)は認める。

4  請求原因4(損害)について

(一) 逸失利益

亡直美が平成元年四月から芦屋産業株式会社に勤務していたこと、及び同年八月三〇日までに一一七万四八〇〇円の収入があつたことは認め、その余は争う。

ただし、右収入は賃金ではなくホステスとしての報酬であり事業収入であるから、逸失利益算定の基礎となるのは、これから必要経費を控除した残額であるところ、ホステスの必要経費率は三五パーセントとみるべきである。また、独身女性の生活費控除率は五〇パーセントとすべきである。

(二) 葬祭費

高額にすぎる。

(三) 慰謝料

亡直美は一家の支柱でもなく、また、これに準ずる者でもなく、家族から独立して生活していた未婚の女性であるから一五〇〇万円が相当である。

さらに、後記の搭乗車傷害保険金が支払われたことを考慮すべきである。

5  請求原因5(損害の填補)は認める。

6  請求原因6(弁護士費用)は争う。

三  抗弁

1  好意同乗等による減額

本件事故は、亡直美が男友達を迎えに行くために、亡薫に本件自動車を運転させて、自らこれに同乗していたものであるから、本件自動車の運行目的は亡直美のためにあつたものであり、亡直美は単なる好意同乗者ではなく運行利益の享受者である。しかも、亡直美は、亡薫が本件自動車を運転することを熟知して共に飲酒した上、飲酒運転を制止しないばかりか、前記の運転をさせたものであるから、同人の損害額について五〇パーセント以上の減額をして、亡薫が責任を負うべき範囲を定めるべきである。

2  搭乗者傷害保険金の支払

原告らは、本件事故について、搭乗者傷害保険金として各二五〇万円の支払を受けているものである。本件事故について、原告らが右保険から支払を受けた額は、同保険の保険契約者の契約時の意思及び不法行為たる交通事故によつて生じた損害の公平な負担という理念に照らして、被告らが原告らに対して負担する損害賠償額から控除されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

2  抗弁2の搭乗者傷害保険金の支払関係は認めるが、この搭乗者傷害保険金を被告らが原告らに対して負担すべき損害賠償額から控除すべきであるとの被告らの主張は争う。

第3証拠

証拠関係は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらの記載をここに引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)、同2(責任原因)、同4(損害の填補)及び同5(相続関係)のうち被告らの相続関係は当事者間に争いがなく、同5のうち原告らの相続関係は、原告水野スエノ本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合することによつて認めることができる。

二  そこで、請求原因4(亡直美の死亡による損害)について判断する。

1  逸失利益 五六二二万〇四七六円

成立に争いのない甲第五号、同第一〇号証、同第一四号証、原告水野スエノ本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、(1)亡直美は大分市立原川中学校を卒業して大分高校に進学したが、昭和六二年九月に同校を退学し、店員として働き始めた、(2)その後、平成三年三月頃、別府市においてホテル等を経営する芦屋産業株式会社に勤めることとなり、本件事故時は同社の経営するスナツク「プリンセス」で働いていた、(3)その間、同人は芦屋産業株式会社から、平成元年四月分として二一万六〇〇〇円、同年五月分として二一万八〇〇〇円、同年六月分として二七万円、同年七月分として二三万円、同年八月分として二四万円の給与の支払を受けた外、同年七月三一日に賞与として二万円の支払を受けたことが、それぞれ認められる。

以上の事実によれば、亡直美は本件事故前において、右会社の従業員として、原告主張の額(月額平均二三万四九六〇円)の給与の支払を受けていたものと推認できる(したがつて、亡直美について必要経費を控除すべきである旨の被告らの主張は、右支払金は給与ではないとする点で、その前提を欠くから、採用できない。)

しかし、亡直美の賞与の額について、原告の主張を認めるべき証拠はないから、賃金センサスの平成元年第1巻第1表・産業計・企業規模計の女子労働者の学歴計における、年間賞与その他特別給与額(五三万二七〇〇円)の現金給与額(一七万六七〇〇円)に対する比率(三・〇一)、及び亡直美が就職後第一回の賞与として支給を受けた額(二万円)を考慮して、亡直美の年間の賞与の支給額を前記給与の二か月分であると認める。そうすると、亡直美の本件事故時の年収額は三二八万九四四〇円となる。

そこで、亡直美の逸失利益を算定するに、右年収額を基礎とし、生活費控除率を三〇パーセントとして、死亡時に一八歳であつた亡直美が六七歳まで稼働できたものとして、この期間に対応する新ホフマン係数である二四・四一六によれば右金額(別紙計算式〈4〉のとおり)となる。

2  葬祭費 一〇〇万〇〇〇〇円

亡直美の葬祭費は原告ら主張の額を以て相当と認める。

3  慰謝料 一八〇〇万〇〇〇〇円

亡直美の死亡による慰謝料は、右の額を以て相当と認める。

三  抗弁について判断する。

1  好意同乗について

当事者間に争いのない事実、前記甲号証、成立に争いのない甲第一ないし三号証、同第四号証の一ないし三、同第五ないし九号証、同第一一ないし一三号証に弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

(一)  亡薫は、芦屋産業株式会社に勤務して、別府市内の同社従業員寮に住んでいたところ、亡直美が平成元年三月頃に芦屋産業株式会社に就職して、右寮に住み始めたことから、親しく交際するようになつたものである。

(二)  右両名(以下「本件両名」という。)は、共通の友人で別府市に居住する一宮亘が大分市都町のスナツク(以下「本件スナツク」という。)勤めていることから、この店に遊びに行くようになつた。

(三)  亡薫は本件事故の前夜、亡直美及びその男友達と共に、別府市から本件スナツクに遊びに出かけるため、職場の友人から本件自動車を借りて、亡薫が運転して三名で出かけ、午後一一時頃に本件スナツクについた。

(四)  右三名は、本件スナツンでウイスキーの水割りを飲むなどして、翌午前二時半頃店を出た。同店での亡薫の飲酒量は、水割りを三ないし四杯程度であつた。

(五)  同店で、亡直美は前記の一宮亘に、店が終われば帰りは本件自動車で別府まで送る旨の約束をしていた。

(六)  同日午前三時頃、亡直美から本件スナツクの一宮亘に店の前へ同四時に迎えに行くとの電話がかかつてきた。

(七)  亡薫が運転し、亡直美が助手席に乗つた本件自動車は、国道一〇号線を別府方面から大分方面へ向けて進行中、同日午前三時五六分頃に本件事故を発生させた。

(八)  本件事故時において、亡薫の血中アルコール濃度は一ミリリツトルにつき〇・七七ミリグラムであつた。

(九)  亡薫は普通自動車の運転免許を有していたが、亡直美は有していなかつたため、両名が本件自動車を借りたときは、常に亡薫が運転していた。

以上の事実によれば、亡直美は亡薫とともに、別府市から大分市内のスナツクまで飲酒しに出掛けることとして、亡薫の運転する本件自動車で別府市を出たものであり、飲酒後、同様にして別府市に一度戻つて、さらに両名の共通の友人を大分市まで迎えに出かけたところ、途中で本件事故に遭遇したものである。そうすると、亡直美は、亡薫が飲酒の上で深夜に自動車を運転すれば、危険な運転をする可能性があることを十分に予見することができたものと認められるから、それにもかかわらず、亡薫の運転する本件自動車に同乗した点で落度があり、同人のこのような落度は、前記の亡薫の過失の程度及び態様と対比すれば、全損害額から一〇パーセントを減額するのが相当であると認められる。

2  搭乗者保険金の支払について

原告らが、本件事故について、搭乗者傷害保険金として各二五〇万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。

しかし、弁論の全趣旨によれば、本件搭乗者傷害保険は、本件自動車の所有者である齋藤敏彦が保険契約者となつている契約であつて、亡薫が保険契約者となつている契約ではないことが認められるから、この契約によつて原告らに支払われた搭乗者傷害保険金を、本件事故を発生させた亡董が原告らに対して負担すべき亡直美の損害額の算定において、控除すべき理由はないものである。

四  原告らが、損害の填補として二五〇〇万円を受領したこと(請求原因5)は当事者間に争いがないから、原告らの損害は四二六九万八四二八円(別紙計算式〈5〉のとおり)となる。

五  弁護士費用について 三〇〇万〇〇〇〇円

原告が本件訴訟を訴訟代理人である古庄玄知弁護士に委任し、報酬を支払う旨の約束をしていることは、弁論の全趣旨により明らかであり、本件事案の内容、審理経過、認容額等に鑑み、被告に負担させるべき弁護士費用の額は、三〇〇万円が相当と認める。

六  結論

以上によれば、原告らの本訴各請求は、被告らに対し各一一四二万四六〇七円(別紙計算式〈6〉のとおり)及びこれに対する本件事故日である昭和六三年四月八日から完済まで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 楠本新)

計算式〈1〉

117万4800円÷5×(12+4)=375万9360円

計算式〈2〉

375万9360円×(1-0.3)×24.416=6425万1973円

計算式〈3〉

6425万1973円+100万円+2000万円-2500万円+590万円=6615万1973円

計算式〈4〉

23万4960円×(12+2)=328万9440円

328万9440円×(1-0.3)×24.416=5622万0476円

計算式〈5〉

(5622万0476円+100万円+1800万円)×(1-0.1)-2500万円=4629万8428円

計算式〈6〉

(4629万8428円+300万円)÷4=1142万4607円

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